アトピー性皮膚炎治療薬の開発研究



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1.津軽における藍の歴史
2.天然藍染工業の工程
3.藍由来の生理活性物質
4.藍に関する生理活性物質と化学構造
5.アトピー性皮膚炎治療薬の開発研究




1.津軽における藍の歴史

 私たちが住む弘前市には、慶安年間に100軒程の紺屋があり(下図:弘前古御絵図)1)、 明治30年頃まで天然藍染めが盛んに行われていました。しかし、ドイツで藍色の原因色素、「インジゴ」の化学合成、及び工業合成に成功したため、 入手容易な化学染料が世界的に流布し、天然藍を用いた染工場は次第に衰退していきました。現在、弘前市において 天然藍染めを行う工場は、極僅かとなっております。

    

                 弘前古御絵図                                        現在の弘前市の地図


 一方、弘前市に隣接する藤崎町・板柳町では、明治政府の政策の1つである士族授産のもと、旧弘前藩士らが岩木川と平川の合流地点(下袋地区)で 藍の栽培、及び「すくも」の製造を行っていました。しかし、インド産の安価な藍の輸入、生産性の高いリンゴ栽培の代替により、次第に衰退していきました。 現在、藤崎町では極僅かな土地で藍が自家栽培されているだけで、「すくも」製造技術については絶滅の状態 にあります。



2.天然藍染工業の工程

 藍の生葉に藍色色素「インジゴ」は含まれておらず、無色透明の配糖体「インジカン」の状態で存在しています。 この生葉に物理的な攻撃が加わると、加水分解酵素の働きによってインジカンから糖がはずれ、「インドキシル」という物質に変化します。インドキシルは不安定なため、 空気中で容易に酸化的カップリング反応を起こし、「インジゴ」に変化します。天然藍染工業で用いられるのは生葉ではなく乾燥葉です。乾燥葉は酵素が働いた後なので、 インジゴが存在しています。天然藍染工業では、この乾燥葉を約100日間醗酵させ、染液の原料となる「すくも」を製造します。 醗酵させることによって、糖やタンパク質といったインジゴ以外の物質が分解し、インジゴが主成分の「染め」にふさわしい状態になります。しかし、 インジゴは「非水溶性」であるため、このままでは染色を行うことができません。そこですくもをさらに醗酵させ、微生物の力でインジゴを還元し、 「水溶性」の「ロイコインジゴ」に導きます。ロイコインジゴの状態で染色すれば、あとは空気酸化で容易にインジゴに戻ります。



天然藍染工業の工程



3.藍由来の生理活性物質

 藍には民間伝承として、次のような効用があると言われています。


参考:川崎染工場ホームページ
http://www5a.biglobe.ne.jp/~aizome/aizome.html


 上記のように、民間伝承として多くの効用が言い伝えられているにも関わらず、 その化学的な実証はほとんどなされていません。科学者間で、「藍」は「藍染の植物」という意識が強く2)、 一般に知られている植物のわりに、生理活性物質の探索が少ないという状態でした。しかし、 「漢方薬(Chinese Drug)」が世界的に注目されるようになり、 今日では化学・医薬学分野において盛んに研究が行われています。


4.藍に関する生理活性物質と化学構造

 藍から単離・構造決定された生理活性物質をいくつか示します。

 ・Indirubin(インジルビン)・・・抗腫瘍性,抗癌剤3)

 ・Kaempferol(ケンフェロール)・・・抗ピロリ菌活性4)


5.アトピー性皮膚炎治療薬の開発研究

 近年、乳児から成人までの広い年齢層でアトピー性皮膚炎の患者が増加しています。 また、先進工業国の人口の20%はアトピー性皮膚炎を患っています5)。アトピー性皮膚炎の治療は、日本皮膚科学会や旧厚生省厚生科学研究班のガイドライン6)にあるとおり、 ステロイド外用薬の適正使用を中心とし(場合によっては免疫抑制剤を使用)、これにストレスの軽減を配慮するものになっています。 しかし、ステロイド外用薬の使用は、皮膚の表面を薄くし、外部からの刺激や感染等に対する抵抗力が弱くなるなど、様々な副作用を起こすため、 新たな型の治療薬の開発研究が求められています。

 我々は、「藍が皮膚に良い」という言い伝えに着目し、様々な皮膚病の原因菌である、Malassezia furfur に対する抗菌物質を、藍から探索することにしました。M. furfur皮膚常在真菌で、澱風・脂漏性皮膚炎の原因として知られていましたが、 最近、9つのアレルゲンがこの菌から見出され、成人のアトピー性皮膚炎との関連で、皮膚科学者から注目されています。

 タデアイの乾燥葉をジクロロメタンで抽出し、その後分離・分画を数回繰り返し、M. furfur に対して高活性な物質、「Tryptanthrin」 を単離しました。MIC(最小発育阻止濃度)では、現在治療に用いられている抗真菌薬、硝酸ミコナゾールの約6倍の活性を示しました。

 

引用文献

1) 「新編 弘前市史」編纂委員会 編,「新編弘前市史通史編3(近世2)」,弘前市企画部企画課 (2003)

2) 南善子,化学と生物,39(3),202 (2001)

3) X.Bin,Mem.Inst.Oswaldo Cruz.,86(Sup.2),51-54 (1991)

4) T.Hashimoto et al,Nad.Med.,53(1),27-31 (1999)

5) Viswanath P.Kurup,Banani Banerjee,Fungal allergens and peptide epitopes Peptides 21,589-599 (2000)

6) 「アトピー性皮膚炎ガイドライン2002」 URL:http://www.kyudai-derm.org/atopy/atopy.html

参考文献

1) 北原晴男ら,「藍の化学」,弘前大学教育学部紀要87,83-88 (2002)

2) K.Seifert and W.Unger Verl.Zeitsch.Natur.49,44 (1988)

 


研究グループメンバー
熊澤健一(卒業生) 河井里子(卒業生)  石川大悟(M2)


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