問題解決を重視した小学校社会科の学習指導[3]
   ーーー5年「森林を守る」・6年「明治時代の文化」・6年「国際交流」ーーー 

  Teaching of primary social studies,
with   emphasis on solving problems

                       *
                天 内 純 一
                Jun−ichi Amanai
  
 要   旨
 3つの単元の教材開発に取り組み,問題把握を確かなものにするための導入段階のあ
り方や,主体的な追究がなされるようにするための単元構成はどうあればよいか具体的
に考えてみた。
 5年「森林を守る」の単元では,その一部が青森県に位置する白神山地を中心教材と
して取り上げ,森林伐採の現状や環境破壊に目を向けさせながら森林が果たす役割に気
付かせるとともに,しだいに減少していくブナの原生林に対する自分のなりの考えを持
てるような学習過
程を工夫した。
 6年「明治時代の文化」の単元では,津軽地方を中心に数々の洋風建築物を建てた堀
江佐吉に焦点をあて,人物や文化遺産を重視した教材の開発に努めた。また6年「国際
交流」の単元では,学習問題を把握させるために,オリンピックで金・銀・胴のメダル
を獲得した国の数に目を向けさせることにした。

[1].はじめに
 問題解決な学習の重視が文部省小学校指導書教育課程一般編の「改訂の基本方針」の
項にあげられ,教育現場ではその具体的な実践に取り組んでいる。社会科は教科の特性
から,問題解決的な学習過程にそった教材をより多く開発し,「自ら学ぶ意欲を育て社
会の変化に主体的な子どもを育てる」ために,重要な役割を果たしていかなければなら
ないと考える。
 本論文では,前号に引き続いて,問題解決的な学習を進めるための教材の開発に重点
を置き,3つの単元の学習について事象提示や展開の仕方などについてより具体的に述
べる。
 「森林を守る」の単元では,問題解決と同時にまたはその後に必要とされてくると考
えられる「社会的判断力」の育成についても触れてみた。
───────────────────────────────────────
─ *弘前大学教育学部附属小学校 Attached Primary Schoo
l,     Faculty of Hirosaki University
 白神山地の教材化にあたって最も留意すべき点は,ブナ林の現状や現在抱えているさ
まざまな問題について,知識・理解の注入だけにとどめてはいけないということである
。森林の大切さを自分の生活と関連づけながらより実感的にとらえさせることは大切で
ある。それと同時に森林保護と森林の活用,森林と人間の関わりについて考える子ども
を育成しなければならない。「森林を守る」では,社会的な判断力の育成についても述
べる。

[2].研究目標
1.資料や調査活動をもとに,「白神山地」「堀江佐吉」「オリンピック」の教材化の
道を探る。
2.導入段階で子どもが問題意識を明確に持てるよう,社会事象の提示の仕方を工夫す
る。
3.3つの単元の学習を問題解決的に進めるために,単元全体の指導計画はどうあれば
よいか研究する。
4.「森林を守る」の単元では,社会的な判断力を育てるために意志決定の場面を取り
入れた指導計画はどうあればよいか研究する。

[3].研究の実際

1.森林を守るー白神山地の教材化
 (1) 世界遺産に指定された白神山地
 5年生の子どもは白神山地が世界遺産に指定されたことを知っているが,指定に至る
までの経過や白神山地の価値,ブナ林保護の重要性などについてはほとんど知らないと
いってよい。そもそも白神山地は何故貴重な存在なのであろうか。次の図ー1(白神山
地の自然(1)から引用)を見ると,ブナは北海道の一部から本州一帯にかけて分布して
いることがわかる。しかし,図ー2(ブナを守る(2)から引用)からは,まとまったブ
ナ林が白神山地以外にはほとんど無くなってしまったという驚くべき事実がみえてくる
。

 ブナ林はなぜ減少したのだろうか。一つにはブナ林の生い茂るブナ帯が人間の生活の
場となっているためであると考えられる。暖房をはじめ家・家財その他の材料としてブ
ナ林は少しずつ切られていく。また,居住地や果樹などの農業を営むための農地として
伐採される。人工の増加に伴い,人間の生活の場は広がっていくのであるからブナ林減
少の原因は人間そのものの活動にあるといってよい。
 二つめとして,スキー場・ゴルフ場などのレジャー施設の開設がある。図ー3(日本
のブナ帯文化(3)から引用)からわかるように,わが国のスキー場は,ブナ帯を中心と
して開設されている。人々の生活が豊かになり,レジャーが盛んになるにつれてブナ林
の伐採は増加していった。

        図ー3  森林帯とスキー場の分布

 しかし,これら二つの原因とは比較にならない程大がかりで,しかも大量のブナ林の
伐採が行なわれてきた事実がある。それは国による大規模な伐採計画である。主に三期
に渡っている。
   (1)戦争の軍需用
   (2)戦後の経済の高度成長のため
   (3)拡大人工造林計画という国の林業政策のためである。
 拡大人工造林計画には,国有林の経営問題が関係している。経営の赤字を解消するた
めに,経済効率の悪いブナを切ってスギを植林しよう動きが全国各地にみられた。トラ
ック林道がつくられ,合理化・機械化による皆伐方式が実施されたのである。図ー4(
ブナが消える(4)から引用)はブナの伐採量を表したものである。

   伐採を敢行した後の土地が有効に活用さ┌────────────────┐
  れ,植林が成功しているかというと決して│  図ー5           │
  そうではない。植林されずにそのまま取り│                │
  残された土地や植林が失敗して「不成績地│                │
  」として放置されたものもある。図ー5(│                │
  東京書籍の教科書)からはそのようにして│                │
  荒れ果てていく土地が年々増え続けている│                │
  ことが読み取れる。          │                │
   これらの伐採によって森林の保水力が著│                │
  しく低下し,洪水や山崩れの被害が出てい│                │
  る。                 │                │
   幸いなことに白神山地にはこれらの伐採│                │
  から逃れた地域が数多く残っている。  │                │
   しかし,この貴重なブナ林に昭和57年│                │
  林道建設の着工が始まった。事業目的は経│                │
  済・文化交流と過疎対策である。これに対└────────────────┘
  して工事に反対の自然保護団体が林道建設反対の運動を起こした。反対の主な理由
は次のようなものである。
(1)白神山地は日本最大のブナ林に代表される原生的生態系であり,林道による分断は
面積的広がりとしての価値を損なう。
(2)多雨地帯であり,治山・治水の問題が多発する。
(3)林道建設後の維持・管理が難しい。
(4)曲がりくねった山岳道路で,半年も雪のため通行不能であるから経済交流や過疎対
策には役立たない。
 自然保護派の人々の主張が認められ,青森県と秋田県を結ぶ青秋林道は一部で工事に
着手したものの,63年中止が決定した。
 その後,白神山地の貴重な自然を保護するために,ユネスコ「世界遺産条約」に基づ
き1993年世界遺産に登録された。

 (2) 問題解決的な学習 
 この単元の導入段階で白神山地が世界遺産に指定されたわけを話し合ってみると,よ
くわからない子が多い。他の地域では見られないブナ林があり,とても珍しい山地らし
いという漠然とした理由だけをあげる子が多数である。白神山地のブナ林が全国的には
もちろん世界的にも貴重な存在であるということを,他地域との比較やブナ林伐採の歴
史と関連させて理解しているわけではない。
 学級全体の中で予想をもとに話し合いをしてみると,次のような理由に集約される。
    ・ブナ林の面積がとても広い     ・ブナの木の数が多い
    ・ブナが何年も生きていて太く大きい ・とてもきれいな山だから
    ・ゴルフ場やスキー場がない     ・道路が出来ている(ある)?
    ・人の手にふれていない       ・伐採されていない
    ・ゴミをすてたりしていない     ・──────────
 
 そこで,白神山地の実際の姿をとらえさせる必要がある。
 白神山地のVTRを視聴し,話し合いを重ねていくと豊かな自然,広い範囲のブナ林
が存在することが世界遺産に指定された理由であることがはっきりしてくる。
 しかし,ここで白神山地の面積を弘前市の面積と比較して実感的にとらえた時,日本
全体から考えるとその面積は非常に小さいことに気づくのである。国土の面積4分の3
を占めるほど森林の面積が大きい日本で,何故木の生育面積の小さい白神山地のブナ林
が非常に貴重な存在であり,世界遺産に指定されるまでになったのであろうか。ブナ林
は青森県に特有の森林で他県では見られないものなのだろうかとも考えられるが,調べ
てみるとそうではない。ブナ林は全国に分布しているのである。
 ここまで考えを進めた時,「白神山地が世界遺産に指定されたのはなぜ?」という学
習問題が設定される。そして,学習問題の解決のために全国のブナ林の様子やブナの伐
採の歴史について調べようという追究の意欲がわいてくる。
 このようにして白神山地を「森林を守る」の導入として取り上げることによって,日
本の森林全体に目を向けさせていくことが出来る。また,白神山地を入り口として,森
林が果たす役割や森林の木を伐採することによって起こる環境破壊の学習に取り組ませ
ていくことが出来る。

 (3) 社会的判断力を育てる
 森林の学習では社会参加の出来る子を目指して学習が進められなければならない。小
西正雄「提案する社会科」(5) では,出力型の授業の大切さが語られている。授業を「
知識を身につける場として考えるのではなく,身につけたものを使わせる場として考え
る」のである。本単元では,提案する社会科の「社会的自己認識の育成」の一面を取り
入れる。すなわち学習したことをさらに発展させて「社会的判断をする場」を単元の中
に組み込むことを試みた。
 もちろん,これまでの問題解決学習において,「社会的判断をする場」が単元の中に
位置付けられた実践は数多く存在している。問題解決そのものが思考・判断と切り離し
て考えられないからである。しかし,多くの実践が問題解決そのものに重点を置き,「
社会的判断をする場」が発展学習として,ある程度の学習終了後に始められることが多
いのも事実である。本稿で述べる他の2つの単元「明治時代の文化」「国際交流」もそ
のようなタイプの問題解決学習の過程をとっている。問題解決学習が常に「社会的判断
をする場」を有するべきであるとは考えない。単元によっては,問題解決の過程そのも
のを通して社会的判断力を育てられている場合もある。
 この森林の単元は,知識を完全に獲得した後に,社会的判断をする場を設定すると平
易な討論に終始してしまう。また,白神山地が世界遺産に指定された経過について全く
の知識がないままの状態,つまり生活経験だけの状態でも,討論が成立しないと考える
。そこで,前項のような過程を短時間におさめてから,「社会的判断をする場」に続け
るようにした。具体的には白神山地が非常に貴重な存在であり,みんなの力で保護して
いかなければらないことに気づいた子どもたちに,次の(1)〜(3)の中でどの立場をとる
か選択を迫るのである。(1)ゴミ投棄や自然破壊から完全に保護する。(2)自然の大切さ
を知ってもらうために積極的に白神山地に招待する。(3)世界遺産という知名度を過疎
対策のために利用する。
 (4) 単元構成
  ∧ ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
  つ ┃ 白神山地が世界遺産に指定されたのはなぜ?            ┃
  か ┃ 白神山地のVTRや資料から,白神山地にはブナの原生林が続き自然が┃
  む ┃残されていること,しかし,その面積が少ないことに気づき問題を明確に┃
    ┃する。                              ┃
  ∨ ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━┯━━━━━━━━━━━━━━━┛
          ┌───────────┼────────────┐
  ∧ ┌─────┴───┐┌──────┴─┐┌─────────┴──┐
  追 │全国の森林のようす││ブナ林が減少した││白神山地が世界遺産に指定│
  究 │や,全国に残るブナ││わけや,伐採後の││されるまでの経過を調べる│
  す │林のようすを調べる││ようすを調べる ││ 青秋林道づくりの目的 │
  る │         ││        ││ 過疎の町村の願い   │
  ∨ └─────┬───┘└──────┬─┘└─────────┬──┘
          └───────────┼────────────┘
  ∧ ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━┷━━━━━━━━━━━━━━━┓
  社 ┃ あなたは世界遺産に指定された「白神山地」を,どうしますか?   ┃
  会 ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━┯━━━━━━━━━━━━━━━┛
  的       ┌───────────┼────────────┐
  判 ┌─────┴─────┐┌────┴─────┐┌─────┴──┐
  断 │全国に紹介し,観光客を││本当に自然を守り育て││入山をすべて禁止│
  力 │呼ぶ。        ││る人だけを入山させる││し,自然をしっか│
  を │・博物館       ││・ガイドつき    ││り守る。関係者が│
  育 │・登山道,ゴミ注意  ││・昔からの釣り人  ││みんなに白神山地│
  て │・トイレ,立て看板  ││ 山菜とり     ││を紹介するだけに│
  る │ (自然を荒らさない)││・───────  ││する。     │
  ∨ └─────┬─────┘└────┬─────┘└─────┬──┘
          └───────────┼────────────┘
    ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━┷━━━━━━━━━━━━━━━┓
    ┃話し合いの中から自分の考えを確立する(理由付けされた判断)    ┃
    ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

2.人物を中心にした歴史学習ー「堀江佐吉」の教材化
(1) 明治時代の代表的な大工の棟梁堀江佐吉について
 堀江佐吉については,船水清著「ここに人ありき」(8) にくわしく述べられている。
船水氏は実に精力的にこの郷土の偉人について調べられたようである。堀江佐吉につい
て書かれたその他の著書がほとんどこの本を参考にしていることからもわかる。堀江佐
吉は初期擬洋風建築を青森県に移入した先進的な人であり,さらに工夫をこらして木造
洋風を完成させていった数少ない棟梁の一人である。北海道での修業をはじめ絶えまざ
る努力によって洋風建築の技術を修得し,他の多くの棟梁のように途中で挫折すること
がなかった。青森県が本州の最北端でありながら,明治の新しい建築物に恵まれている
のは堀江佐吉の力によるところが大である。
 また,大工の棟梁として人心収攬の術にも長けており,傘下に多数の大工を抱えると
ともに後進に多大の影響を与えた。

(2) 堀江佐吉関連の史跡や洋風建築と子どもの調査活動 
 6年生の子どもたちは歴史学習の最初の単元「身近な史跡をたずねて」で,地域に残
っているさまざまな史跡や郷土に縁のある人物について調べたり,博物館・史跡巡りな
どを経験している。この単元の構成については前号(9)にくわしく述べている。弘前市
取上にある「貴船神社」の由来調べから歴史学習に入り,身近な史跡を調べて歴史をよ
り実感的にとらえる態度を養うことの大切さについて触れた。
 4・5月の連休をはじめ余暇を利用して弘前市や周辺の市町村の史跡調べに取り組ん
だ子どもたちが気付くことの一つに「弘前市には明治時代の洋風建築が多い」というこ
とがある。親方町の青森銀行記念館,元寺町の弘前教会,御幸町の旧階行社,百石町の
弘前カトリック教会,追風門広場にある旧弘前市立図書館などの建造物が多数である。
また,城北公園の交通広場にはミニチュアとして造られた数々の建造物などがある。
 弘前市は戦国の風雲児津軽為信が築いた城下町であり,古くからの伝統と慣習の残る
街である。江戸時代の学習をもとに,明治の洋風建築を見た時,新しい時代の息吹を感
じるとともに,古い城下町に「洋風化が進んだ背景」に問題意識を持つようになる。
 子どもたちが洋風建築物を調べていくと,そこに一人の人物が浮かび上がってくる。
青森銀行記念館に残る堀江佐吉関連の資料,最勝院境内に建てられた堀江佐吉の巨大な
記念碑を実際に自分の目を通して調べることによって,子どもたちは明治時代に活躍し
た一人の棟梁の偉大さに気付く。
 陸奥新報NIEに掲載された「弘前の洋風建築」(北小 竹村著)をはじめ,堀江佐
吉に関する著書も多く,略歴などがわかるパンフレットなどある。子どもが追究できる
教材である。

(3) 問題解決的な学習のために
 単元全体を1サイクルと考え,学習の大問題の解決を中心に単元を構成することにつ
いては前号(10)で述べた。弘前市や青森県にも縁のある明治天皇東北御巡幸の教材化に
ついても前号を参照して戴きたい。(堀江佐吉はこの明治天皇東北御巡幸に際して,橋
の竣工に取り組んでいる。)
 御巡幸の目的の一つに洋風文化を広めることがある。このことから大単元の中に「堀
江佐吉」についての学習を含ませることも出来るが,ここではある程度独立した学習と
して取り上げたい。前述したように,弘前市は城下町であるにも拘らず明治の洋風建築
物が数多く残されているのである。青森市や八戸市と比較してみるとその数が多いこと
がわかる。青森市には森林博物館,イタリア館,八戸市には明治記念館(旧八戸小)な
どが残されている。弘前市は大きな火災や太平洋戦争の際の空襲などを逃れたというこ
ともあるが,それにしても多くの洋風建築物が残っているのは珍しい。このことから問
題解決的な学習過程を構成することが出来る。

 (4) 単元の構成と本時の流れ
┌─┐    ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓┌───┐
│つ│    ┃o明治天皇と東北御巡幸の様子を調べる。      ┃│弘前の│
│か│    ┃o御巡幸の目的を探ろう              ┃│史跡調│
│む│    ┃予想をもとに追究のための学習計画を立てる。    ┃│べ  │
└─┘    ┗━━━━━━━━━━━━━┯━━━━━━━━━━━┛└─┬─┘
                     │ ┌────────────┘
┌─┐    ┌───────┬─────┼─┼──────┬─────┐
│追│┌───┴──┐┌───┴─┐┏━━┷━┷━┓┌───┴─┐┌──┴─┐
│究││新しい政府と││福沢諭吉と│┃堀江佐吉と弘┃│大日本帝国││西南戦争│
│す││仕組みの改革││文明開化 │┃前に残る西洋┃│憲法と伊藤││自由民権│
│る│└───┬──┘└───┬─┘┃風建物   ┃│博文・板垣││運動  │
│ │    │       │  ┃      ┃│退助   ││    │
└─┘    │       │  ┗━━┯━━━┛└───┬─┘└────┤
┌─┐    └───────┴─────┼────────┴───────┘
│ま│    ┏━━━━━━━━━━━━━┷━━━━━━━━━━━┓
│と│    ┃明治天皇と東北御巡幸を中心に明治時代の政治や社会の┃
│め│    ┃しくみについてまとめる。             ┃
│る│    ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
└─┘
※ 本時の流れ (2時間)        
┌─┐    ┌─────────────────────────┐
│つ│    │弘前市・青森市・八戸市に残る明治時代の西洋風建物の│
│か│    │数やようすを調べる。               │
│む│    └─────────────┬───────────┘
└─┘    ┏━━━━━━━━━━━━━┷━━━━━━━━━━━┓
       ┃弘前市に明治時代の西洋風建物が多いわけは?    ┃
┌─┐    ┗━━━━━━━━━━━━┯━━━━━━┯━━━━━┛
│追│    ┌──────┬─────┼──────┼───────┐
│究│ ┌──┴──┐┌──┴─┐┏━━┷━━┓┌──┴──┐┌───┴──┐
│す│ │明治時代の││弘前の文│┃堀江佐吉と┃│菊池九郎と││ジョン・イン│
│る│ │弘前   ││明開化 │┃西洋風建物┃│キリスト教││グとりんご │
└─┘ └──┬──┘└──┬─┘┗━━┯━━┛└──┬──┘└───┬──┘
┌─┐    └──────┴──────┼──────┴──────┘   
│ま│    ┏━━━━━━━━━━━━━┷━━━━━━━━━━━┓
│と│    ┃弘前に西洋風建物が多いのは堀江佐吉のような研究熱心┃
│め│    ┃な棟梁がいたこと,キリスト教がいち早く取り入れられ┃
│る│    ┃たこと,政府が文明開化に力を入れたことなどによる。┃
└─┘    ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

3.国際交流ーオリンピックの教材化

 (1) オリンピックの目的
 アトランタオリンピックに向けて,選手を励ますコマーシャルがテレビにも登場して
いる。そこで強調される「がんばれ!日本!」というスローガンの「がんばれ」は何を
指しているのだろうか。おそらく日本の選手が競技において上位の成績を修めることで
あろうと思われる。日本選手が金・銀・銅のメダルを獲得したり上位入賞を果たしたり
すると各種のマスコミがこれを大々的に取り上げる。オリンピック開催期間中は入賞選
手や種目について話題が集中するため,子どもたちもオリンピックの目的を勝利第一だ
と考えやすい。
 しかし,オリンピックの目的は勝利だけではない。オリンピック憲章には,「スポー
ツを通じて若者同士が理解し合い,平和な世界をつくること」と書かれている。
 オリンピックの目的が勝利だけではないということは,他のいろいろな国の立場にな
って考えてみるとよくわかる。ソウルオリンピックの場合を考えてみよう。参加160
ケ国の中で金・銀・銅いずれかのメダルを一個でも獲得出来た国は52ケ国,残りの1
08ケ国はメダルに全く手が届かなかった。メダルを獲得した国の中でも日本のように
10個以上の獲得数がある国は,17ケ国しかいないのである。

 それではメダルを獲得出来なかった国の選手はみな失意のまま母国に帰ったのかとい
うとそうではない。オリンピックに「参加すること」だけを目的とする国が多数存在す
るのである。中教出版の教科書に登場するモルジブ共和国などはその典型的な例である
。
 概略は次のようである。
 oソウルオリンピックに参加することを決めたのは,わずか3年前。
 o陸上競技に参加できたのは地区予選がないため。
 oそれまで陸上経験者なし,競技場なし。
 o選手を選抜し,日本人にコーチを依頼。
 oコーチの言葉 「とにかくゴールすること。参加して完全に走り切ることが大切」
 オリンピックに参加する国の意外な実態にふれることによって,国際交流の大切さに
気づいていくのではないかと考える。

(2) 問題解決的な学習の流れ
(1)青森県出身の斉藤選手が柔道で金メダルを獲得した場面や,アトランタオリンピッ
クを目指す選手が登場するVTRを視聴し,オリンピックの目的について話し合う
(2)金・銀・銅のメダルを獲得した国が,参加国全体の中では少ないことに気付き,「
勝つことがオリンピックの第一の目的である」という考えを見なおす。
(3)メダルを獲得しなかった国のようすを調べ,日本と考え方の異なる国が数多くある
こに気づき,オリンピックが国際交流に果たす役割について考える。
(4)オリンピックの歴史を調べ,オリンピックの本来の目的に気づく。
(5)自分にとって「オリンピックの目的」は何か,考えをまとめる。
(6)オリンピック以外の国際交流について調べる。

(3) 単元の構成

┌─┐ ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
│つ│ ┃オリンピックの目的はなんだろう                  ┃
│か│ ┃ ・斉藤仁が金メダルを取ったとき ・田村亮子の目標 ・──────┨
│む│ ┗━━━━━━━━━━━┯━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
└─┘       ┌─────┴──────┐
    ┏━━━━━┷━━━━━┓┌─────┴──────┐┌──────┐
┌─┐ ┃モルジブの選手がソウル┃│オリンピックの歴史   ││海外青年協力│
│ │ ┃オリンピックに参加する┃│・近代オリンピックの発祥││隊の活動につ│
│追│ ┃までの経過を中心に調べ┃│・オリンピックの開催国や││いて調べる。│
│究│ ┃、オリンピックの意義や┃│ 参加国・選手数    ││・しごと  │
│す│ ┃目的を理解する。   ┃│・戦争とオリンピック  ││・派遣されて│
│る│ ┃           ┃│・人権問題       ││ いる国  │
└─┘ ┃           ┃│・政治的な対立     ││・──── │
    ┗━━━━┯━━━━━━┛└─────┬──────┘└────┬─┘
┌─┐      └───────────┬─┴────────────┘
│ま│       ┏━━━━━━━━━━┷━━━━━━━━━━━┓   
│と│       ┃オリンピックは国際交流に大きな役割をはたして┃
│め│       ┃きた。また、スポーツや青年海外協力隊などによ┃
│る│       ┃る交流は世界の平和につながるものである。  ┃
└─┘       ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

 次のグラフは,追究の1時間目における子どもの考えの変化を表したものである。(
調査対象 平成6年度 弘前大学附属小 6年1組38名)
 評価にあたっては簡易アンサーチェッカーを使い,5回にわたって子どもの考えを確
実に把握するようにした。

  1段階────前時までの学習をもとにした話し合い
  2段階────写真「モルジブの選手団」をもとにした話し合い
  3段階────メダル獲得国とメダルなしの国の数がわかる資料をもとに話し合う
  4段階────オリンピックに参加するモルジブの選手の資料をもとに話し合う 
  5段階────クーベルタンの言葉から考える

[4].まとめ
 問題解決を重視した学習ということで,3つの単元について導入段階のあり方,問題
解決的な学習を進めるための単元構成のあり方などについて具体的に述べてきた。資料
や調査活動をもとに単元を構想することができた。この点では目標が達成されたと考え
る。
 2つの単元「明治時代の文化」「国際交流」については,授業実践をし成果をあげて
いるる。「森林を守る」については実践の計画段階である。今後の課題として白神山地
を取り上げた単元構成が有効であるか実証する必要がある。
 社会的な判断力を育てるための指導についてはまだ研究不足である。
 今回参考にした「提案する社会科」では数多くの実践がなされており,合理的意志決
定を目的とした教材研究が進められている。課題に対して子どもが意欲的に解決に向か
う姿や積極的な社会参加を目指す態度など共感する点が多い。単元全体の構成をどのよ
うにするか,また,調べる(追究する)段階で子どもが「個人学習」に取り組む姿や,
資料活用技能を高めるための指導場面など,具体的な子どもの活動でまだよくわからな
い点もある。単元全体の構成も含めて精読する必要を感じている。

[5].おわりに
 子どもの学習意欲を高めるための教材の開発ということで,これまでの教科教育研究
紀要で以下のような単元について実践例や考えを述べてきた。
 o4年 わたしたちのくらしとゴミ      (給食の生ゴミ)
 o5年 工業のさかんな地域と弘前市の結びつき(陸奥製菓)
 o5年 自動車工業             (一台の船に積み込まれる自動車)
 o5年 わたしたちの国土          (青森県のスキー場)
 o6年 歴史を学ぶ             (弘前市取上の貴船神社)
 o6年 明治の新しい世の中         (明治天皇東北御巡幸)
 今回の紀要では3つの単元について述べた。これからも資料収集と調査活動を続け,
新しい教材の開発に努めたいと考えている。

 さいごになりましたが,本稿の作成にあたり,貴重なご助言を戴きました,弘前市「
社会科を語る会」の先生方,本校社会科部の太田先生,教育学部の猪瀬先生,また,資
料収集にご協力戴いた関係の方々に深く感謝致します。

引用・参考文献
(1)青森県立郷土館:ハンドブック白神山地の自然 平成7年 
(2)鳥海山ノ自然ヲ守会・白神山地ノブナ原生林ヲ守ル会:ブナ林を守る 1983年
(3)市川健夫・山本正三・斎藤功:日本のブナ帯文化 朝倉書店 1984年
(4)庄司幸助:ブナが消える 新日本出版社 1989年 
(5)小西正雄:提案する社会科の授業(1)(2)(3) 1994年 明治図書
(6)工藤父母道 他:ブナが危ないー東北各地からの報告 無明社出版 1989年
(7)松永勝彦:森が消えれば海も死ぬ 講談社 1994年
(8)船水清:ここに人ありき 陸奥新報社 昭和49年
(9)天内純一:自分とのかかわりでとらえさせる社会科学習の実践 [1]・[2]
     弘前大学教育学部教科研究紀要第15・17号 1992年 1993年
(10)天内純一:問題解決を重視した小学校社会科の学習指導 [1]・[2]
        弘前大学教育学部教科研究紀要第20号 1993
(11)熊谷啓子:青森県の百人(中) 八戸地域社会研究会 1984年
(12)青森地域社会研究会:青森の101人 北の街社 昭和63年
(13)弘前市教育委員会:続弘前人物志 平成元年
(14)草野和夫:津軽の洋風建築 北方新社 昭和61年 
(15)吉村和夫:津軽の文明開化 北方新社 昭和63年
(16)東奥日報社:写真青森百年史 昭和43年
(17)肴倉弥八:ふるさとの思い出写真集 明治・大正・昭和  昭和55年
(18)上山徳郎:つがる明治百年 陸奥新報社 昭和42年
(19)上杉 修:写真で見る八戸の歴史 八戸社会経済史研究会 昭和45年
(20)毎日新聞社:新聞紙面でみるオリンピック史 平成3年
(21)各社の社会科教科書(平成7年度)
中教出版  東京書籍 教育出版 学校図書 大阪書籍 光村図書 
(22)各社の社会科教科書(平成8年度使用予定)
日本文教出版 東京書籍 教育出版 大阪書籍 光村図書
(23) 社会科教育指導用語事典:教育出版  1988年

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