2001.3.1 第79回 教育福祉とエレクトロニクス懇話会 資料
小山智史

ワンチップマイコンで作る福祉機器「なんでもリモコン」

1. はじめに

 「教育・福祉とエレクトロニクス懇話会」は1991年から西沢勝則さん、川村泰弘さん、久保真一さんらと始め、今回が79回目となります。懇話会の性格を一言で言えば、「境界領域に関心を持つ人達のオープンな勉強会」です。境界領域については、私は下図のようにイメージしています。
学際領域と創造
 境界領域の問題解決あるいは創造は技術者の発想だけでは実を結びません。「ページめくり機」の例をあげれば、「試作」を目的に数億円を投じるというのはいかにももったいない気がします(100%無駄と言うわけではありませんが)。逆に障害者の声を100%形にしても、多くの場合うまくいきません。境界領域の問題解決を現実的に行うためには「バランス感覚」と「寛容さ」が重要です。「教育」との交点においてもまったく同様と思っています。

 会に参加される方に上記のイメージを押し付けるつもりは毛頭ありません。さまざまな方が寄り集まって互いに刺激を与えて、それが各々の活力になればそれでよいわけですから。会を始めた当初から参加されている高橋信進さんが、このことをうまく表現しているので以下に紹介させていただきます。

 「incubatorの話のコピーを同封しました。かつて共に勤務した職場や先生と語れる機会を持っていることが、私にとって貴重なインキュベイターであると思っています。公式・非公式にでも、是非声を掛けてください」。先日、友人のA君からこのような手紙をいただいた。その中には、野口悠紀雄著「超整理法」から抜粋したコピーが同封されてい た。
 野口氏は、発想法もしくはアイディア製造法というものはありうるのか、もしあるとすれば、それは"発想を支援するための環境を整えること"なのではないか、と論じていた。発想を促す1つの方法は、知的な人々を自分の周りに持つことだという。双務的に影響し合える集団に属することができるならば、それが理想的なインキュベイター(孵卵器)となってその人を育ててくれる、と述べていた。
「お互い双務的になりたいものですね」、手紙はこのように結ばれていた。

 弘前大学教育学部教育実践研究指導センターでは「教育・福祉とエレクトロニクス懇話会」を開催している。この会は、小山智史助教授を中心に養護学校・療護施設・民間会社等の人達が月1回集まり、身体に障害を持つ人達のためのコンピュータ利用技術について、それぞれの立場から情報を提供し合い意見交換を行う会である。
 私も時々参加させていただいているが、一方的に情報を与えてもらうだけで申し訳なく思いながらも、コンピュータをより一層人間の側に近づける分野の研究として、いつも刺激と感動を与えていただいている。私にとって、この懇話会は貴重なインキュベイターになっている。(後略)

(高橋信進「インキュベイターとしてのセンター」 青森県情報処理教育センター センターだより 第41号 1994年 より抜粋)
 さて、上図の「創造」をもう少し具体的に書いてみたものが下図です。
生活を豊かにする技術
○生活を豊かにする利活用の創造
パソコンもインターネットも「若い健常者」をターゲットに開発されたもので、高齢者や障害者が十分に活用できないことも少なくありません。しかし、不可能あるいは不便であったことのいくつかは「利用者による小さな工夫」で克服できますし、また、別のいくつかは「技術者による小さな工夫(例えばワンチップマイコンを用いて)」で克服することができます。
○新しいHI(ヒューマンインタフェース)やコミュニケーションスタイルの創造
WWWや電子メールなどに加え、今後は、「高齢者や障害者にも適した新しいインタフェースやコミュニケーションスタイルの創造」が重要なテーマとなるでしょう。そこではニーズ志向とシーズ志向の両面からの柔軟な発想が必要です。具体化する際にはワンチップマイコンの出番も必ずやあるでしょう。
 また、シーズ志向に着目すれば、現在「ものづくり」や「プログラム開発」などの創造能力の後退が懸念されていますが、「技術立国」の回復のためにもワンチップマイコンはひとつの鍵となるでしょう。PICは米国, AVRはノルウェーといずれも海外で誕生したものであることは少し残念ではありますが...。

2. ワンチップマイコン

 コンピュータは「条件を変えた弾道計算を効率良く行う」軍事研究から誕生しました(1946年)。また、マイコンは、モデルチェンジの激しい電卓を効率良く開発する目的で誕生しました。日本のビジコン社がインテル社にプログラム可能な電卓用LSIの発注をし、ビジコン社から嶋正利(現在会津大学教授)がインテル社に出向して開発された初代のマイコンが4004です(1971年)[1]。

 コンピュータは、CPU(中央処理装置), ALU(演算装置), メモリ(記憶装置), I/O(入出力装置)で構成されます。「ワンチップマイコン」はこれらの全機能を1個のLSIにまとめたものです。現在では、TV、電子炊飯器、体温計、携帯電話など身近な家電製品(民生機器)の多くにワンチップマイコンが組み込まれています。量産品では、部品点数を少なくしてコストを下げることが求められるため、自ずと「ワンチップ」の出番となります。この場合、プログラムはマイコン製造時に書き込まれます。マイコンメーカーは量産品向けのワンチップマイコンの開発に力を注ぎ、プログラム可能なマイコンは量産品向けのプログラム開発用という意味合いが強かったと言えます。一方、付加価値の高い産業機器に組み込むマイコンは「ワンチップ」である必要はなありませんでした。

 1995年ころから普及したPIC[2][5]やAVR[3][6]というワンチップマイコンは、容易にプログラムの書き換えができるため多品種少量生産の用途に適しており、「静かなブーム」になっています。「試作は可能であっても実用化が困難であった(小物)機器」や「個別に対応が必要な福祉機器」の製作が容易になりました。

3. ワンチップマイコンを用いたいろいろな機器

3. 「なんでもリモコン」

 重度の障害者では、「できることを増やす」ことがとても大事なことです。例えば、日立のALS患者向けコミュニケーションエイド「伝の心」は、金魚の給餌器を接続できるようになっています。金魚を飼うことが「自分で」できるようになるわけです。

 岩木病院や山郷館には、側に置いてある自分のテレビのリモコン操作ができない重度障害者が何人もいます。リモコンを手で持っていても、リモコンのボタンを押す力が無く、あるいは複数のボタンを押し分けることができずに、そのたったひとつの操作をも誰かに依頼しなくてはなりません。あるいは頻繁に依頼することを恐縮して我慢することもあるようです。

 「なんでもリモコン」はこのような問題を解決するために作った汎用リモコン装置で、岩木病院と山郷館で現在6台利用されています。

 概ね次のようなものです。なお操作方法や技術的な情報は、「なんでもリモコンのページ」をご覧ください。

 「なんでもリモコン」の外観と内部の様子は次の写真のようになっています。
なんでもリモコンの概観 なんでもリモコンの内部
 次のような問題点がわかっています。  次に、このような(小物)機器を開発する場合のプロセスを簡単に紹介しておきます(AVRの場合)。

4. 新しいコミュニケーションスタイルの可能性: パソコン中心の発想からの転換

 現在のパソコンやインターネットの利用スタイル(例えばワープロ、表計算、電子メール、WWWなど)は、必ずしも高齢者や重度障害者に馴染むものではありません。(その一方で、高齢者や障害者に「みんなと同じことをしたい」という気持ちがあることも忘れてはいけません。)iMODEやインターネットTVなど、パソコン操作以外の方法が現れていることは多少興味深いところです。

 次世代に向けて、高齢者や障害者にも馴染むようなコミュニケーションスタイルの研究は重要なテーマであると思われます。「高齢者にアンケート...」というようなアプローチもあるわけですが、これは今存在しないものを模索する時に必ずしも適当な方法ではありません。柔軟な発想が何より重要で、そのためには、さまざまな方の考えが交錯するこの懇話会は大変貴重な場であると思っています。

 ワンチップマイコンとの関連で言えば、次のような製品や研究が注目されます。

(参考資料)
[1]嶋正利: マイクロプロセッサの25年, 電子情報通信学会誌, Vol.82, No.10, pp.997-1017, 1999.
[2]後閑哲也: PIC活用ガイドブック, 技術評論社, 2000.
[3]赤松武史: AVRマイコンの概要と専用ライタの製作, トランジスタ技術, 1999年11月号, pp269-280.
[4]石井裕: Tangible Bits: 情報の感触/情報の気配, 情報処理, Vol.39, No.8, pp.745-751, 1998.
[5]MicroChip社(PICマイコン), http://www.microchip.com
[6]ATMEL社(AVRマイコン), http://www.atmel.com/atmel/products/prod23.htm
[7]赤松武史: AVRライタ制作集, http://elm-chan.org/works/avrx/report.html
[8]桜井: マウス改造用クリックコントロールチップ, http://member.nifty.ne.jp/RadioShack/techv/pdev/ccc/ccc.html
[9]TriState corp.マウスクリックコントロールチップ, http://www.tristate.ne.jp/tsjob010.htm
[10]桜井: リモコンプロジェクト
[11]クロッサム2+(ハル・コーポレーション), http://www.halcorp.co.jp/hard/crossam/index.htm
[12]福士幸弘:
クロッサムコントローラ, http://member.nifty.ne.jp/kikiroom/remocon/cro-con.htm
[13]PADdeMOUSE
[14]なんでもリモコン, http://siva.cc.hirosaki-u.ac.jp/usr/koyama/product/irscan.htm


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http://siva.cc.hirosaki-u.ac.jp/usr/koyama/product/onechip.htm
また、「なんでもリモコン」の詳細は下記のページをご覧ください。
http://siva.cc.hirosaki-u.ac.jp/usr/koyama/nandemo/